「瀬戸内海」 二つの時代に歌われた瀬戸内の船旅
「瀬戸内海」は、明治から昭和にかけて小学校で歌われた唱歌で、同じ題名ながら『尋常小学唱歌』と『新訂尋常小学唱歌』では、異なる歌詞と旋律による作品が収められています。
『尋常小学唱歌』第六学年用 1905年(明治38年)
作詞:石原和三郎
作曲:田村虎蔵
明治38年(1905年)に刊行された『尋常小学唱歌』第六学年用の「瀬戸内海」は、石原和三郎作詞、田村虎蔵作曲による作品です。神戸を出発し、須磨、明石、淡路島、小豆島、赤穂、尾道、呉、宇品、厳島、三田尻、壇の浦、四国、高松など、瀬戸内海沿岸の名所を船でめぐる旅を描いています。
歌詞には、白い砂浜、青い松、大小の島々、海軍の基地として知られた呉や宇品、厳島の大鳥居など、瀬戸内海の多彩な景観や歴史が次々と登場します。単に海の美しさを歌うだけではなく、船旅を通して日本の名所や歴史に親しませる教材としての性格を持った唱歌といえるでしょう。
『新訂尋常小学唱歌』第六学年用 1932年(昭和7年)
文部省唱歌(作詞、作曲者 不詳)
昭和7年(1932年)に刊行された『新訂尋常小学唱歌』第六学年用にも、同じ「瀬戸内海」という題名の歌が収録されました。こちらは「のどけき春の朝ぼらけ」「デッキに立ちて眺むれば」と始まり、船のデッキから眺める瀬戸内海の春の景色を中心に描いていきます。
そして船が進むにつれて島影が近づいたり遠ざかったりする様子、朝日にきらめく波、霞む島影、白帆、桜など、穏やかで美しい海上の風景描写が続きます。
このように「瀬戸内海」は、明治期の作品では沿岸の名所や歴史を広く紹介する「地理・歴史的な船旅」の歌として、昭和の新訂版では春の瀬戸内海を眺める「情景描写の歌」として、それぞれ異なる魅力を持っています。
瀬戸内海
瀬戸内海 昭和7年「新訂尋常小学唱歌・第六学年用」の歌詞
1
のどけき春の 朝ぼらけ
デッキに立ちて 眺むれば
朝日きらめく 波の上
おぼろにかすむ 島山(しまやま)の
影おもむろに 移りゆく
2
前より来たる 白帆(しらほ)かげ
たちまち後(あと)に 消え去りて
遠くかすかに 見えたりし
島影やがて 近づけば
又あらわるる 島いくつ
3
静けき波に 影うつす
緑にまじる 花ざくら
匂う山辺も いつしかに
眺めは変わる おもしろさ
瀬戸内海の 船の旅

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