曲名:近江八景
作詞:作者不詳
作曲:作者不詳
発表・掲載:明治29年(1896年)
掲載書:『新編教育唱歌集 第7集』
歌い出し:「三井寺の鐘の音 澄み渡る夕暮れ」
「近江八景」は、明治29年(1896年)に刊行された『新編教育唱歌集 第7集』に収められた唱歌です。作詞者・作曲者はいずれも明らかになっておらず、作者不詳とされています。歌は「三井寺の鐘の音 澄み渡る夕暮れ」で始まり、琵琶湖周辺に名高い「近江八景」を順に歌い込んでいます
歌詞には、三井寺(園城寺)の鐘、堅田の初雁、唐崎の老松、粟津野の秋風、瀬田の夕日、比良の暮雪、石山の月、そして矢橋へ帰る舟の帆など、近江の代表的な景勝が次々と登場します。三番までの歌詞によって、琵琶湖を取り巻く四季や夕暮れ、月、秋風などの美しい情景が描かれています。
「近江八景」とは、琵琶湖周辺の代表的な八つの景勝地を指します。一般に、粟津晴嵐、瀬田夕照、三井晩鐘、唐崎夜雨、矢橋帰帆、石山秋月、堅田落雁、比良暮雪の八景をいいます。中国の「瀟湘八景」にならった景観で、近世以降、近江を代表する名所として広く知られるようになりました。
この歌で特に印象的なのが、冒頭に置かれた「三井寺の鐘の音」です。三井寺の正式名称は園城寺で、夕暮れに響く鐘の音は「三井晩鐘」として近江八景の一つに数えられています。文化庁も「園城寺(三井寺)の夕暮れに鐘の音が鳴り響く情景」を近江八景の一つとして紹介しています。
歌詞は、単に名所を列挙するのではなく、「鐘の音」「初雁の声」「秋風」「夕日」「暮雪」「月」など、視覚だけでなく聴覚や季節感を取り入れている点に特色があります。そのため、歌うことによって琵琶湖畔の静かな夕暮れから夜へ移っていく情景が、次第に目の前に浮かぶような構成になっています。
明治期には、全国の名所や歴史、自然を題材にした唱歌が数多く作られました。「近江八景」もその一つで、郷土の美しい風景を歌を通して子どもたちに知らせる役割を担った作品といえます。また、後の大正元年(1912年)刊行の『尋常小学唱歌 第四学年用』にも、同じ「近江八景」という題名の別の唱歌が収録されています。ただし、こちらは「琵琶の形に似たりとて」で始まる作品であり、「三井寺の鐘の音」で始まる明治29年の歌とは別作品です。
近江八景
近江八景 作詞・作曲者不詳
1
三井寺の鐘の音
澄み渡る夕暮れ
初雁も堅田に
声たてて落ち来ぬ
ひとり立てる 唐崎の老松
雨か波か 淋しげに響くは
2
今もなお身にしむ
粟津野の秋風
いずかたぞ昔の
兼平の石碑
瀬田の夕日 とこしえに淋しく
比良の暮雪 いつ見ても美くし
3
月の影さやかに
澄み昇る石山
千代かけて忍ぶは
紫のその筆
山田 矢走 見え渡る名どころ
さして帰る 舟の帆も三つ四つ

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