「村の鍛冶屋」は、鍛冶職人が鉄を打ち、農具などを作る仕事の様子を力強く描いた文部省唱歌です。1912年(大正元年)12月、『尋常小学唱歌 第四学年用』に初めて掲載され、発表されました。 作詞者・作曲者はともに不詳とされています。
歌い出しの「暫時(しばし)も止まずに 槌打つ響」からは、鍛冶屋で金属を打つ槌の音が、力強く響き渡る情景が伝わってきます。飛び散る火花、赤く熱せられた鉄、そして「ふいご」から送られる風。昔の鍛冶職人の仕事場が目に浮かぶような、躍動感のある歌です。
この歌で描かれている鍛冶屋は、刀を作る刀鍛冶ではなく、鎌や鋤、鍬など農作業に使う道具を作る「野鍛冶」です。初版の3番には、刀ではなく「平和の打ち物」を打つという内容があり、農村の暮らしを支える職人の仕事が描かれています。
また、鍛冶屋の主人について「鉄より堅しと誇れる腕に 勝りて堅きは彼がこころ」と歌うところには、熟練した技術だけでなく、仕事に対する誇りや強い精神が表現されています。単なる職業紹介ではなく、働くことの尊さや職人の心意気を讃えた歌として作られたことが、この作品の大きな特徴です。
発表当時は4番までありましたが、時代とともに歌詞が変更され、戦時中には3番以降が削除されました。その後も教科書への掲載が減り、現在では昔の唱歌として知られる存在になっています。
「村の鍛冶屋」は、槌を打つ音や火花の輝きという具体的な情景を通して、昔の農村に生きた職人の姿を生き生きと伝えてくれる唱歌です。今では身近に見る機会が少なくなった鍛冶屋の仕事を思い浮かべながら聴くと、当時の暮らしや、ものづくりにかける職人の誇りを感じることができる、味わい深い一曲です。
村の鍛冶屋
うた(1942年改訂版)
演奏
1947年(昭和22年)改訂版
村のかじや 作詞・作曲者:不詳1
しばしも休まず 槌うつ響き
飛びちる火花よ はしる湯玉
ふいごの風さえ 息をもつがず
仕事にせい出す 村のかじ屋
2
あるじは名高い 働きものよ
早起き早寝の やまい知らず
永年きたえた じまんの腕で
うち出す鋤鍬 心こもる
1942年改訂版の2番(1番は同じ)
あるじは名高いいっこく者よ
早起き早寝のやまい知らず
鐵より堅いとじまんの腕で
打ち出す刃物に心こもる
ここに原詩を掲載しておきます。
1
暫時(しばし)も止まずに 槌うつ響
飛び散る火の花 はしる湯玉
鞴(ふいご)の風さえ 息をもつがず
仕事に精出す 村の鍛冶屋
2
あるじは名高き いっこく老爺(おやじ)
早起早寝の 病知らず
鉄より堅しと 誇れる腕に
勝りて堅きは 彼が心
3
刀はうたねど 大鎌小鎌
馬鍬に作鍬 鋤(すき)よ鉈(なた)よ
平和の打ち物 休まずうちて
日毎に戦う 懶惰(らんだ)の敵と
4
稼ぐにおいつく 貧乏なくて
名物鍛冶屋は 日々に繁昌
あたりに類なき 仕事のほまれ
槌うつ響に まして高し
暫時(しばし)⇒ ちょっとのあいだ・しばらく
湯玉(ゆだま)⇒ 湯が煮えたつ時、表面にわきあがる泡・玉のように飛び散る熱湯。
鞴(ふいご)⇒ 主に鍛冶現場で使われていた、手動式の送風機。
いっこく ⇒ 頑固(がんこ)で人の意見を聞かない・強情。
懶惰(らんだ)⇒ なまけて、仕事などをなおざりにすること。
現在の若い人には、「鍛冶屋」と言っても分からない人が多いでしょう。それどころか、鍬(くわ)、鋤(すき)、鉈(なた)、といった農具さえ分からない人も多いと思います。

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