作詞:与謝野鉄幹
初出:1899年(明治32年)
「人を恋うる歌」は、歌人・詩人の「与謝野鉄幹」が作詞した詩歌で、冒頭の「妻をめとらば才たけて」で広く知られています。
この作品は、1899年(明治32年)に「友を恋ふる歌」という題で発表されたのが初出とされています。その後、「人を恋ふる歌」として知られるようになり、1901年(明治34年)刊の詩歌集『鉄幹子』にも収められました。
歌は、理想の女性を妻に求める心から始まり、理想の友を選ぶこと、友情や義侠心を重んじる生き方へと内容が広がっていきます。「妻をめとらば才たけて、顔うるはしくなさけある」「友をえらばば書を読んで、六分の侠気四分の熱」という冒頭には、明治時代の青年が抱いた理想の人物像が端的に表れています。
単なる恋愛の歌ではなく、恋、友情、義、そして青年の理想や生き方を力強くうたった作品であることが、この歌の大きな魅力です。
なお、現在広く歌われている「人を恋うる歌」には曲が付けられており、後に学生歌・愛唱歌としても親しまれるようになりました。
人を恋うる歌
人を恋うる歌
作詞:与謝野 鉄幹/作曲者不詳
1
妻をめとらば 才たけて
みめ美(うる)わしく 情けある
友をえらばば 書を読みて
六分(りくぶ)の侠気(きょうき) 四分の熱
2
恋の命を たずぬれば
名を惜しむかな 男(おのこ)ゆえ
友のなさけを たずぬれば
義(ぎ)のあるところ 火をも踏(ふ)む
3
汲めや美酒(うまさけ) うたひめに
乙女の知らぬ 意気地あり
簿記(ぼき)の筆とる 若者に
まことの男 君を見る
4
ああわれダンテの 奇才なく
バイロンハイネの 熱なきも
石を抱(いだ)きて 野にうたう
芭蕉のさびを よろこばず
5
人やわらわん 業平(なりひら)が
小野の山ざと 雪をわけ
夢かと泣きて 歯がみせし
むかしを慕(しと)う むら心
6
見よ西北に バルカンの
それにも似たる 国のさま
あやうからずや 雲裂(さ)けて
天火(てんか )一度(ひとたび) 降らんとき
7
妻子を忘れ 家を捨て
義のため恥(はじ)を 忍ぶとや
遠くのがれて 腕を摩(ま)す
ガリバルディや 今いかに
8
玉をかざれる 大官(たいかん)は
みな北道(ほくどう)の 訛音(なまり)あり
慷慨(こうがい)よく飲む 三南(さんなん)の
健児(けんじ)は散(さん)じて 影もなし
9
四度(しど)玄海(げんかい)の 波を越え
韓(から)の都(みやこ)に 来てみれば
秋の日かなし 王城(おうじょう)や
昔に変る 雲の色
10
ああわれ如何(いか)に ふところの
剣(つるぎ)は鳴りを ひそむとも
咽(むせ)ぶ涙を 手に受けて
かなしき歌の 無からめや
11
わが歌声の 高ければ
酒に狂(くる)うと 人のいう
われに過ぎたる のぞみをば
君ならではた 誰か知る
12
あやまらずやは 真ごころを
君が詩いたく あらわなる
無念なるかな 燃ゆる血の
価(あたい)少なき 末(すえ)の世や
13
おのずからなる 天地(あめつち)を
恋うる情けは 洩(も)らすとも
人をののしり 世をいかる
はげしき歌を ひめよかし
14
口をひらけば 嫉(ねた)みあり
筆を握(にぎ)れば 譏(そし)りあり
友を諌(いさ)めに 泣かせても
猶(なお)ゆくべきや 絞首台(こうしゅだい)
15
おなじ憂(うれ)いの 世に住めば
千里のそらも 一つ家(いえ)
己(おの)が袂(たもと)と いうなかれ
やがて二人の 涙ぞや
16
はるばる寄せし ますらおの
うれしき文(ふみ)を 袖(そで)にして
きょう北漢(ほくかん)の 山のうえ
駒(こま)立て見る日 出(い)づる方(かた)

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