作詞:林古渓(1875~1947)
作曲:成田為三(1893~1945)
「浜辺の歌」は、林古渓作詞、成田為三作曲による、日本を代表する歌曲・唱歌の一つです。
作詞者の林古渓は、詩人・歌人であるとともに国文学者としても知られています。「浜辺の歌」の原詩は1913年(大正2年)、東京音楽学校の校友会誌『音楽』に「はまべ」という題で発表されました。「作曲用試作」と記されており、もともとは作曲されることを想定して書かれた詩でした。
この詩に曲をつけたのが、当時東京音楽学校で学び、山田耕筰に師事していた成田為三です。作曲は1915~1916年頃とされ、1918年(大正7年)にはセノオ楽譜から「濱邊の歌」として出版されました。表紙には人気画家・竹久夢二の絵が用いられたことも話題となりました。
歌詞の「あした浜辺を さまよえば」「ゆうべ浜辺を もとおれば」という美しい言葉からは、海辺を歩きながら、遠い昔や昔の人を懐かしむ心情が伝わってきます。「寄する波」と「かえす波」、「月の色」と「星のかげ」など、対になる表現も印象的で、海の風景と人の心が重なり合った詩となっています。
ところで、この歌には意外な裏話があります。現在一般に歌われているのは1番と2番ですが、林古渓が最初に書いた詩は全4連でした。ところが雑誌に掲載された際、編集上の手違いによって第3連と第4連の一部がつなぎ合わされ、現在「幻の3番」と呼ばれる歌詞が生まれたとされています。林古渓自身は、この歌詞では意味が十分に通らないとして、3番が歌われることを好まなかったと伝えられています。
このような興味深い成立事情を持ちながらも、「浜辺の歌」は100年以上にわたって歌い継がれてきました。寄せては返す波、夕暮れの海、月や星の光。そして、そこに重なる人の記憶――。成田為三の穏やかで美しい旋律が、林古渓の詩に込められた「懐かしさ」を今も静かに伝えています。
浜辺の歌
うた
演奏
1
あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ 忍ばるる
風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も
2
ゆうべ浜辺を もとおれば
昔の人ぞ 忍ばるる
寄する波よ 返す波よ
月の色も 星のかげも
3
疾風(はやち)たちまち 波を吹き
赤裳(あかも)のすそぞ ぬれひじし
病みし我は すでに癒えて
浜辺の真砂 まなごいまは
1番の「あした」とは「朝」のことです。

0 件のコメント:
コメントを投稿