「冬の夜」は、1912年(明治45年)3月に刊行された『尋常小学唱歌 第三学年用』に掲載された文部省唱歌です。作詞者・作曲者は明らかにされておらず、一般に「文部省唱歌」として扱われています。
この歌が描いているのはまだラジオすらなかった頃の、農家の厳しい冬の夜の風景です。外では吹雪が吹き荒れる一方、家の中では囲炉裏の火が「とろとろ」と燃え、母は灯火のそばで裁縫をし、父は囲炉裏端で縄をなっています。そして子どもたちは両親の話に耳を傾けながら、家族そろって静かな夜を過ごしています。
一番では、母が春の遊びの楽しさを語り、子どもたちは春の訪れを待ちわびています。冬の寒さの中にありながら、子どもたちの心には春への期待が広がっています。二番では、父が昔の思い出を語り、子どもたちは眠ることも忘れて話に聞き入ります。このように、母と父、それぞれを中心とした家庭の情景が対照的に描かれています。
この歌の大きな魅力は、「外の吹雪」と「家の中の囲炉裏のぬくもり」という対比にあります。外は厳しい冬の世界ですが、家の中には明かりと暖かさがあり、家族の会話が絶えません。「囲炉裏火は、とろとろ」という素朴な言葉が、静かに燃える火の様子と、家族の穏やかな時間を印象深く伝えています。
また、明治時代の農村や家庭生活を思わせる、裁縫や縄ない、囲炉裏などの生活風景が歌の中に残されています。そのため「冬の夜」は、単に冬の寒さを歌った作品ではなく、昔の日本の家庭にあった団らんや親子の温かなつながりを描いた唱歌として親しまれてきました。
なお、戦後には二番の歌詞の一部が改められ、以前の「過ぎしいくさの手柄を語る」という表現から、「過ぎし昔の思い出語る」などの形で歌われるようになりました。現在はこの戦後の歌詞で紹介されることも多く、時代による歌詞の変化も、この曲の歩みを知るうえで興味深い点です
「冬の夜」は、吹雪の夜を背景にしながら、家族のぬくもり、親子の会話、春を待つ子どもの心を静かに描いた唱歌です。明治の家庭の暮らしを思い起こさせる素朴な情景と、穏やかで親しみやすい旋律によって、今もなお日本の冬を代表する唱歌の一つとして歌い継がれています。
冬の夜
うた
演奏
冬の夜 文部省唱歌
1
燈火ちかく 衣縫う母は
春の遊びの 楽しさ語る
居並ぶ子どもは 指を折りつつ
日数かぞえて 喜び勇む
囲炉裏火はとろとろ 外は吹雪
2
囲炉裏の端に 縄なう父は
過ぎしいくさの 手柄を語る
居並ぶ子供は ねむさ忘れて
耳を傾け こぶしを握る
囲炉裏火はとろとろ 外は吹雪
「囲炉裏火はとろとろ」という言葉が、部屋の暖かさのみならず、ほのぼのとした家族の雰囲気を出していると思います。

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