作歌:橘 曙覧(1812~1868)
作曲:信時 潔(1887~1965)
作曲年:1936年(昭和11年)
「独楽吟(どくらくぎん)」は、幕末の歌人・橘曙覧(たちばな あけみ)の短歌をもとに、作曲家・「信時 潔」が1936年(昭和11年)に作曲した歌曲です。橘曙覧の「独楽吟」は、「たのしみは」で始まる短歌52首からなり、日々の暮らしの中にあるささやかな喜びを詠んだ作品として知られています。
信時潔は、この52首の中から6首を選び、一つの歌曲としてまとめました。歌われるのは、「たのしみは 朝おきいでて……」をはじめ、「歌がふとおもしろくできた時」「知人が訪ねてきた時」「暖かな日に散歩する時」「煙草を吸いながら物思いにふける時」「人を集めて酒を飲み、食事をする時」といった、身近な生活の楽しみです。
橘曙覧は1812年(文化9年)に生まれ、1868年(慶応4年)に亡くなった幕末の歌人・国学者です。難しい題材ではなく、花が咲いたこと、人が訪ねてきたこと、散歩をすること、友人と酒を飲むことなど、普通の暮らしの中にある喜びを平易な言葉で詠んだところに大きな特色があります。
信時潔の音楽も、こうした歌の内容にふさわしく、6首それぞれの情景や心情を変化に富んだ旋律で表現しています。明るく伸びやかな部分から、しみじみとした情緒を感じさせる部分まで、曲調が移り変わり、最後は人と集い酒食を楽しむ喜びを感じさせるように締めくくられます。
「独楽吟」は、特別な出来事ではなく、毎日の暮らしの中にある小さな幸福に目を向けた橘曙覧の歌と、それを日本歌曲として豊かに表現した信時潔の音楽が結びついた作品です。「たのしみは」という言葉の繰り返しからも、日常の中にある幸せを大切にする、温かな人生観が伝わってきます。
独楽吟(信時潔)
独楽吟 作詞:作曲/橘 曙覧:信時 潔
たのしみは
朝おきいでて 昨日(きのう)まで
無(なか)りし花の 咲ける見る時
たのしみは
百日(ももか)ひねれど 成らぬ歌の
ふとおもしろく 出(い)できぬる時
たのしみは
書(ふみ)よみ倦(うめ)る をりしもあれ
声知る人の 門(かど)たたく時
たのしみは
空暖かに うち晴し
春(はる)秋(あき)の日に 出(い)でありく時
たのしみは
心にうかぶ はかなごと
思いつづけて 煙草(たばこ)すうとき
たのしみは
とぼしきままに人集め
酒飲め物を 食えという時

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